すきっ歯、開咬を伴う骨格性の受け口を、外科手術を行わずに改善した症例(マウスピース矯正)
症例ブログ
2026.08.29
2026.09.07
今回ご紹介するのは、
「受け口とすきっ歯が気になる」とご相談いただいた10代後半の患者様です。
親知らずを抜歯し、マウスピース矯正で治療を行いました。
実際の治療前写真をもとに、どのように改善したのかをご紹介します。
※写真は患者様の同意を得て掲載しています。
目次
治療前の状態
<初診時>

上下の前歯には歯と歯の間にすき間があり、いわゆる「すきっ歯」の状態でした。特に上あごの前歯の真ん中には2.5 mmほどの大きなすき間があり、歯がハの字に傾いていることですき間が強調されていました。

上下歯列の真ん中(正中)を比べると、上の正中に対して下の正中が右側にずれていました。



横から確認すると、下の歯が正常な位置よりも前方へ出ており、いわゆる「受け口」の状態でした。また、奥歯は噛み合っているけれど前歯が噛み合っていない「開咬」を伴っていました。
さらに、左右の奥歯の噛み合わせは、右側は概ね良好な噛み合わせである一方、左側では下の奥歯が上の奥歯よりも前方に位置するAngleⅢ級の関係が認められました。
>>受け口とは
【診断と治療方針:原因は骨格的なバランスと舌癖】
口腔内・顔貌写真に加え、セファロ分析(側貌レントゲン分析)などの検査結果を踏まえて、以下の特徴が認められました。
- 下顎前突症(骨格的に受け口の傾向がある)
- 下顎骨の右方偏位(あごの中心が右側にずれている状態)
- 右側Angle Ⅲ級
- 開咬(奥歯は噛み合っているが、前歯が噛み合わず隙間が生じている状態)
- 空隙歯列(すきっ歯)
——–
- 舌癖

本症例では、骨格的な要因と舌癖が、それぞれ異なる部分の歯並び・噛み合わせに影響していました。
舌癖が影響した開咬・すきっ歯
まず、開咬やすきっ歯には、舌癖が大きく影響していました。本症例では、舌で上下の前歯の裏側を押す癖があり、前歯が噛み合いにくくなる「開咬」や、歯と歯の間に隙間が生じる「空隙歯列」の原因の一つになっていたと考えられます。
舌は、安静時や飲み込むときなどにさまざまな動きをしています。こうした舌の位置や動きに癖があると、歯に継続的な力が加わり、歯並びや噛み合わせに影響を及ぼすことがあります。特に開咬では、歯を並べるだけでなく、舌の位置や使い方にも目を向けることが重要です。
また、舌癖への対応は、治療中だけの問題ではありません。矯正治療によって得られた歯並びを長く維持するためにも、舌の位置や使い方を整え、前歯を押す癖を改善することは、保定を考えるうえでも大切なポイントとなります。
骨格的な要因が関係した受け口・正中線・左側の奥歯のずれ
一方で、受け口や正中線のずれには、骨格的な要因が関係していました。下あごが前方かつ右側に位置していたため、受け口や正中線のずれに加え、左右の噛み合わせにも差が生じていました。右側の奥歯の噛み合わせは概ね良好でしたが、左側では下の奥歯が上の奥歯よりも前方に位置するAngleⅢ級の関係が認められました。
骨格的な不調和が大きい場合には、「顎変形症」と診断され、下あごを骨ごと後方へ移動させる外科矯正治療が適応となることがあります。しかし、外科手術には身体的な負担や一定のリスクも伴います。
今回は患者様のご希望も踏まえ、手術を伴わない「カモフラージュ矯正治療」を選択しました。顔立ちを大きく変えることなく、現在の骨格の中で噛み合わせと歯並びを整えることを目指します。
本症例では、小臼歯の抜歯は行わず、もともとあった「すき間」を利用することとしました。右側の奥歯の良好な噛み合わせはできるだけ維持しながら、左側の歯列を後方へ移動させることで、前歯と奥歯の噛み合わせを整える方針としました。
1. あごの成長段階を確認したうえでの治療開始
患者様は10代であったため、治療を開始するタイミングに注意が必要でした。
10代後半は下あごがまだ成長している場合があり、治療中や治療後に下あごがさらに前方へ成長すると、整えた歯並びや噛み合わせが再びずれてしまう可能性があります。
そこで、治療を始める前に手の指の骨のレントゲン撮影を行い、成長の度合いを確認しました。
手の骨には、成長に伴って現れる特徴的な変化があります。そのため、手の骨の成熟度を確認することで、全身の成長段階や、あごの成長がどの程度進んでいるかを推測することができます。

今回はこの検査の結果、あごの成長がおおむね落ち着いていることを確認できたため、矯正治療を開始しました。
2. 親知らずの抜歯による遠心移動のスペース確保

レントゲン上で、上下左右に親知らずが存在していることが確認されました。4本中3本の歯は歯ぐきに完全に埋まっていましたが、左下のみ少し生えかけている状態でした。
矯正治療と聞くと「必ず親知らずを抜く」というイメージを持たれている方も多いですが、実際には、親知らずを抜くかどうかは症例によって異なり、治療計画上必要な場合に抜歯を行います。
今回問題となったのは、後方への移動(遠心移動)を予定していた左下の親知らずです。歯列を後方へ移動させる際には、親知らずが効率的な移動の妨げとなることがあります。
そこで今回は、下顎左側の第三大臼歯(親知らず)の抜歯を行い、歯列を後方へ移動させるためのスペースを確保しました。
3. マウスピース型矯正装置と顎間ゴム ー下あごの歯列を後方へ移動ー
親知らずの抜歯によって確保したスペースを活用し、マウスピース型矯正装置(インビザライン)を用いて下あごの歯列全体を後方へ移動させていきました。

治療の途中からは、より効率的に歯を移動させるため、顎間ゴムを併用しました。
顎間ゴムとは、上下の歯の間に小さなゴムをかけることで、上下の歯列に対して適切な方向へ力を加える補助装置です。

マウスピース型矯正装置と顎間ゴムを併用しながら治療を進め、治療開始から10か月ほど経過した頃には、噛み合わせやすきっ歯の状態はおおむね改善しました。
4. 2種類の保定装置 ー治療後の歯並びを安定させるためにー

歯を動かした後は、そのままにしておくと元の位置に戻ろうとする「後戻り」が起こります。本症例では舌癖があり、舌の継続的な圧力が歯に加わり続けるため、後戻りが起こりやすい状態でした。
そのため、後戻りを防ぎ、治療後の歯並びを安定させるためにも、保定をより慎重に行う必要がありました。
そこで、上下の歯の裏側に「リンガルボンディドリテーナー」を装着しました。これは、前歯の裏側に細いワイヤーを直接接着して固定する保定装置です。
併せて、「クリアリテーナー」を夜間に装着しました。これは、歯列全体を透明なマウスピースで覆う取り外し式の保定装置です。
このように2種類の保定装置を組み合わせることで、前歯の位置を安定させながら、歯列全体の保定を行っています。
まとめ・治療後の変化

治療後は、気にされていたすきっ歯が改善しました。



また、受け口や開咬が改善し、奥歯・前歯ともにしっかりと噛み合う状態となりました。
今回のように、受け口や開咬には、歯の位置だけでなく、あごの骨格や舌の使い方など、複数の要因が関係している場合があります。そのため、歯並びだけを見るのではなく、それぞれの原因を見極めたうえで治療方針を検討することが重要です。
骨格的な不調和がある場合、「外科手術をしなければ改善できない」と思われる方もいらっしゃいます。しかし、今回のように外科手術を行わず、現在ある空隙を利用して下あごの歯列全体を後方へ移動させることで、受け口や開咬の改善を目指せる場合もあります。
また、矯正治療の期間は症例によって大きく異なりますが、本症例では、装置による歯の移動と患者様のご協力により、約1年4か月という期間で、良好な歯並びと噛み合わせに近づけることができました。
本症例では、骨格的な要因だけでなく、開咬やすきっ歯に影響していた舌癖にも着目し、治療後の歯並びを安定させるための保定まで含めて治療を行いました。保定開始から1年が経過した現在も、安定した歯並びと噛み合わせを維持できています。
当院では、患者様との対話や検査を通して、お一人おひとりの歯並びや骨格、生活背景などを考慮し、適した治療方法をご提案しています。
歯並びや噛み合わせについてお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
治療前後の写真比較
治療前
(0か月)
治療後
(16か月)
保定中
(保定開始から10か月)

























治療内容のまとめ
| 年齢・性別 | 10代・男性 |
| 主訴 | 受け口とすきっ歯が気になる |
| 診断 | 下顎前突、反対咬合(交叉咬合)、開咬、空隙歯列 |
| 使用した装置 | マウスピース型矯正装置 |
| 抜歯部位 | 下顎左側第三大臼歯 |
| 治療期間 | 1年4か月 |
| 治療回数 | 10回 |
| 保定装置 | 上顎リンガルボンディッドリテーナー、上下顎クリアリテーナー |
| 治療費用 |
矯正料 929,500円 (検査料、装置代、管理料、保定装置代を含む) ※抜歯は他院にて実施したため、抜歯費用は上記に含まれておりません |
治療を行う上での注意点
| リスク/副作用 |
装置の痛み、違和感 歯根吸収 歯肉退縮 むし歯・歯肉炎のリスク上昇 治療後の後戻り(保定装置が必要) 治療期間には個人差あり(延長・計画変更の可能性) |
監修歯科医師
小田垣 直弥
院長
マウスピース矯正や裏側矯正、口ゴボの改善などの難症例を得意としています。矯正歯科医として、患者様一人ひとりの骨格や顔立ちに合わせた治療を心がけています。特に、見た目にこだわる大人の方には「見た目に矯正中だとわかりにくく、仕上がりにも妥協しない治療」を大切に、日本矯正歯科学会認定医として丁寧な診断とご提案を行っています。
マウスピース矯正や裏側矯正、口ゴボの改善などの難症例を得意としています。矯正歯科医として、患者様一人ひとりの骨格や顔立ちに合わせた治療を心がけています。特に、見た目にこだわる大人の方には「見た目に矯正中だとわかりにくく、仕上がりにも妥協しない治療」を大切に、日本矯正歯科学会認定医として丁寧な診断とご提案を行っています。


