八重歯の矯正で抜歯は必要?抜くのは犬歯ではない理由と、抜歯する歯の選び方を症例で解説
矯正コラム
2026.09.27
2026.09.27
「八重歯を治したくて矯正歯科を調べていたら、抜歯が必要だと書かれていた」
そう知って、手が止まってしまった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
健康な歯を抜くことに抵抗を感じるのは、とても自然なことです。とくに八重歯は歯列から飛び出しているため、「この歯さえ抜いてしまえば済むのでは」と考える方も少なくありません。
ただ、矯正治療で抜歯を行う場合、抜くのは八重歯そのものではないことがほとんどです。
この記事では、実際に重度の八重歯を抜歯矯正で治療した患者様の経過をご覧いただきます。抜歯が必要になるのはどのような場合か、抜くのはどの歯なのか、そして治療がどう進んでいくのかをお伝えします。
「自分の場合はどうなるのだろう」その見当をつけるための材料として、お読みいただければと思います。
目次
重度の八重歯(叢生)を抜歯矯正で治療した症例|治療前後の変化
はじめに、実際の症例をご覧ください。上下ともに歯の重なりが大きく、笑ったときに八重歯が目立っていた患者様の治療経過です。



この後にご説明する「なぜ抜歯が必要だったのか」「どの歯を抜いたのか」という判断も、すべてこの患者様のケースをもとにお話しします。一般論としてではなく、一人の患者様の治療としてお伝えしたいためです。
まずは、治療前と治療後で口元がどう変わったのかを見ていただきます。
治療前の状態|歯の重なりが大きく、奥歯には補綴物が入っていた
初診時は、上下ともに重度の叢生でした。叢生とは、あごに歯が並びきらず、歯が重なって生えている状態のことです。
一方で、奥歯どうしの噛み合わせは大きく崩れていませんでした。この患者様のお悩みの中心は、前歯まわりの重なりと、そこから飛び出した八重歯にありました。
あわせて、奥歯には銀歯による補綴物が複数入っていました。さらに、上下左右の親知らずがあごの骨の中に埋まったままの状態でした。
この「歯の重なりの量」と「どの歯に補綴物が入っているか」は、どちらも後の抜歯部位の判断に関わってきます。歯並びだけを見て決めているわけではない、という点をここでお伝えしておきます。
治療開始から1年の変化|重なりがほどけ、笑ったときの印象が変わった

治療は4月に開始しました。半年後の10月時点で、歯の重なりはかなりほどけています。
そして1年が経つ頃には、重なりはほぼ解消していました。とくに変化が大きかったのは、笑ったときの見た目です。残念ながらこの時点でのお口元の写真はありませんが、歯並びを見ていただければ、かなり印象が変わることがわかるかと思います。
矯正治療というと数年単位の話に感じられ、「その間ずっとこの歯並びのままなのだろうか」と気になる方もいらっしゃると思います。1年でここまで見た目が変わるという経過は、治療期間を考えるうえでのひとつの目安になります。
なお、この患者様は上あごで通常より一本分多く歯を動かす必要がありました。その理由は後ほど詳しくご説明します。移動する距離が長いにもかかわらず1年で歯並びが整ったのは、マウスピースの装着時間を日々守っていただけたことが大きいと考えています。
見た目が整った後の1年|噛み合わせを仕上げる期間

歯並びの見た目が整った時点で、治療が終わるわけではありません。
1年経過した時点でも、上下の歯が接しておらず噛み合わせが良好でない部分もありました。こうした細かい部分を仕上げるために、さらに約1年の調整期間を設けています。
患者様ご自身は、1年の時点ですでにご満足いただいていました。それでも、噛み合わせが整わないまま終えると、長い目で見て歯に負担が残ります。ですから、もう1年かけて仕上げていくことをご説明しています。
この仕上げの期間は、治療を始める前にお伝えする費用設定の中に含まれています。途中で追加の費用が発生するものではありません。
叢生を抜歯矯正で治療した症例は、ほかにもご紹介しています。あわせてご覧ください。
>>ガタガタと前突感を整え、自然な口元に仕上げた学生の症例(表側ワイヤー矯正)
八重歯の矯正で抜くのは、八重歯そのものではありません

「飛び出している歯を抜いてしまえば早いのでは」
八重歯についてご相談いただく際、こうしたお話をうかがうことがあります。
しかし矯正治療で抜歯を行う場合、抜くのは八重歯そのものではなく、その後ろにある小臼歯であることがほとんどです。八重歯の正体である犬歯には、噛み合わせの中で担っている役割があるためです。
ここでは、犬歯を残す方向で計画を立てる理由と、実際に抜歯の対象になる歯について詳しくご説明します。
八重歯の正体は犬歯|生えるスペースが足りずに押し出された歯
八重歯とは、糸切り歯と呼ばれる犬歯が歯列からはみ出して生えた状態を指します。
犬歯は、永久歯の中でも生え変わりが遅い歯のひとつです。犬歯の順番が回ってくる頃には、先に生えた歯であごのスペースが埋まっていることがあります。残ったわずかなすき間に入りきらず、外側へ押し出される形で生えたものが八重歯です。
つまり八重歯は、犬歯だけに問題があって起きているわけではありません。あごの大きさと、そこに並ぶ歯の大きさとの差から生じている状態です。日本人はあごの骨が小さめである一方、歯の大きさは相対的に大きい傾向があるといわれています。
ですから、八重歯だけを抜いてすき間を作っても、ほかの歯の重なりまで解消するとは限らないのです。
犬歯は歯根が長く、力に強い歯
犬歯は、歯根が長く、あごの骨にしっかり支えられている歯です。歯の頭の部分に対して根が長いため、力がかかっても耐えやすい構造をしています。
そして犬歯は、上下の歯列の中で角にあたる位置に立っています。食事のときやあごを左右に動かしたとき、あごの動きを誘導する重要な役割を担っています。
この役割のため、犬歯は、矯正や補綴の分野で古くから重視されてきました。犬歯を失うと、その役割を別の歯が代わりに担うことになります。
「犬歯誘導」がどのような考え方なのか
あごを横に動かしたときに犬歯だけが当たり、奥歯が離れる噛み合わせを「犬歯誘導」と呼びます。奥歯どうしがこすれ合わないため、奥歯の負担が減ると考えられています。
これに対し、複数の歯で力を分け合う噛み合わせはグループファンクションと呼ばれます。どちらが優れているかについては、現時点で明確な結論は出ていないとする報告もあります。
それでも、歯根の長さや骨の支えという条件から、犬歯がこの役割に向いているという見方は広く共有されています。そのため矯正治療では、犬歯を残す方向で計画を立てるのが基本になります。
抜歯の対象になりやすいのは第一小臼歯・第二小臼歯
実際に抜歯の対象となるのは、犬歯の後ろにある小臼歯です。前から数えて4番目の第一小臼歯と、5番目の第二小臼歯にあたります。
この位置が選ばれるのには理由があります。前歯に近い場所にあるため、そこにできたすき間を前歯側の重なりの解消に使いやすいのです。また、笑ったときに見えにくい位置でもあります。
本数については、上下左右で合計4本を抜くケースが多くあります。ただし、片側だけ、あるいは上あごだけという判断になることもあります。どの歯を何本抜くかは、重なりの量と噛み合わせの状態によって変わります。
八重歯の矯正で抜歯が必要かどうかは、何で決まるのか

抜歯が必要かどうかは、歯科医師の好みで決まるものではありません。「歯を並べるために必要なスペース」と「今の歯列で使えるスペース」を比べ、どれくらい足りないかを測ることから始まります。
「自分は抜歯が必要なのか」ということは多くの方が最初に気になさる点だと思います。ここでは、その判断がどのような順序で進むのか、そして抜歯を避けたい場合にどのような方法があるのかをご説明します。
足りないスペースの量が、抜歯を検討する分かれ目になる
まず、すべての歯をきれいに並べたときに必要となるスペースを計算します。次に、現在の歯列でどれだけのスペースが使えるのかを測ります。この2つの差が、足りないスペースの量です。
差が小さければ、歯列の形を整える範囲で対応できることがあります。一方で差が大きくなるほど、歯を並べる場所をどこかで作る必要が出てきます。
今回ご紹介した患者様は、抜歯なしでは歯を並べるスペースが足りませんでした。「抜歯が必要です」とお伝えする背景には、こうした計測に基づく判断があります。
抜歯を避けたい場合に用いられる3つの方法
スペースの不足量が限られている場合には、抜歯をせずにスペースを作れることがあります。方法は大きく3つです。
ひとつめは、歯と歯の間をごくわずかに削るIPRという方法です。ふたつめは、歯列の幅を横方向へ広げる側方拡大です。みっつめは、奥歯を後ろへ動かしてスペースを作る遠心移動です。
ただし、いずれの方法も作れる量には限りがあります。無理に適用すると、歯が骨から出てしまったり、前歯が前に押し出されて口元が出て見えたりする可能性があります。どこまで対応できるかは、骨の厚みや歯根の位置によって変わります。
また、奥歯を後ろへ動かす際には、「アンカースクリュー」という小さなネジを固定源として使うことがあります。仕組みについてはこちらで詳しくご説明しています。
>>矯正用アンカースクリューは痛い?怖い?「骨にネジ」と聞いて不安な方へ、仕組みと役割を徹底解説
診断で確認していること|歯根の向きと骨の状態
矯正治療の診断では、見えている歯並びだけではなく、歯ぐきの中に隠れている歯根がどこに位置し、どの方向を向いているかまで確認します。
今回の症例では、CTと口腔内スキャンのデータを重ね合わせて診断しました。その結果、前歯4本のうち、2本は歯根が比較的適切な位置にありましたが、2本は内側(舌側)に位置していることがわかりました。
歯根の向きがばらついたまま歯を並べると、歯肉退縮や歯を支える骨への負担につながることがあります。 そのため、見えている歯並びだけでなく歯根の向きもなるべく揃うように調整しながら治療を進めました。
あわせて、頭部X線規格写真によるセファロ分析も行います。歯の傾きだけでなく、上下のあごの位置関係まで確認するためです。鶴見ニコ矯正歯科では、院長と副院長がそれぞれ日本矯正歯科学会の認定医として在籍しており、こうした診断内容を複数の目で確認しています。
八重歯の抜歯矯正はセオリー通りの歯を抜かない判断もありえます

抜歯矯正では、「抜くかどうか」だけでなく「どの歯を抜くか」も、治療の中身を大きく変えます。
一般的には第一小臼歯を抜くのが基本とされています。しかしお口の状態によっては、あえて別の歯を選ぶことがあります。今回ご紹介した症例では、上あごにおいて第一小臼歯ではなく第二小臼歯を抜きました。
その理由について、順にご説明します。
一般的に第一小臼歯(4番)が選ばれる理由
第一小臼歯は、犬歯のすぐ後ろにあります。前歯側に近い位置のため、ここにスペースができれば、前歯と犬歯をそのまま後方へ動かして重なりを解消できます。
動かす距離が短く済むぶん、マウスピース矯正であれば必要な枚数が少なくなり、ワイヤー矯正であれば調整の回数を抑えやすくなるなど、治療の負担も抑えられます。
こうした治療の進めやすさから、一般的に第一小臼歯が選ばれることが多くなっています。
今回の症例で第二小臼歯(5番)を抜いた理由|歯の寿命を優先した判断

この患者様の上あごでは、第一小臼歯が削られていない健全な歯でした。一方、その一本後ろの第二小臼歯には、すでにインレーという詰め物が入っていました。
矯正治療の進めやすさだけを考えるなら、セオリー通りに第一小臼歯を抜くところです。しかし、健全な歯を残し、すでに処置されている歯を抜くほうが、長い目で見て歯を保ちやすくなります。
詰め物が入っている歯は、その部分から再びむし歯になったり、将来的にさらに大きな処置が必要になったりすることがあります。どちらの歯を残すかを考えたとき、健全な第一小臼歯を残すほうが、80歳になったときに残っている歯の本数につながると判断しました。
矯正治療は、歯並びを整えて終わりではありません。その後の何十年を、どの歯とともに過ごすのかまで含めて考えています。
抜く歯を変えると、動かす距離が増えて難易度が上がる
第二小臼歯を抜いた場合、前歯の重なりを解消するには、第一小臼歯も含めて一本分多く後ろへ動かす必要があります。
動かす距離が増えるぶん、マウスピースの枚数も増えます。歯を計画通りの方向へ導く難易度も上がります。
それでも今回は、健全な歯を残すことを優先しました。抜く歯の位置を一本ずらすという判断が、治療の進め方そのものを変えることになります。
下あごでは第一小臼歯を抜いている|上下で判断が分かれることもある
今回の症例では、下あごについては第一小臼歯を抜きました。上あごは左右第二小臼歯、下あごは左右第一小臼歯という組み合わせです。
上下で抜く歯が異なるのは、珍しいことではありません。それぞれのあごで、歯の状態も必要な移動量も違うためです。歯の状態を一本ずつ確認したうえで、どの歯を抜歯するかを決めていきます。ご自身の場合にどの歯が対象になるのかは、検査を経てはじめてお伝えできる部分です。
八重歯の抜歯矯正で「後悔した」といったお声があるのはなぜか

「八重歯を抜歯矯正して後悔する可能性があるの?」と、不安になった方もいらっしゃると思います。
実際に多く寄せられるご不安は、顔立ちが変わること、口元が下がりすぎること、抜いたすき間が残ることの3つに集まります。それぞれがどのような場合に起こりうるのか、そして治療を始める前にどこを確認しておけば防ぎやすいのかをご説明します。
顔立ちが変わることへの不安
抜歯矯正では前歯が後方へ移動するため、口元の印象が変わることがあります。
もともと口元が前に出ていた方ほど、変化を感じやすい傾向があります。逆に口元が出ていない方では、大きく変わらないことも多くあります。どちらになるかは、抜歯するかどうかだけでは決まりません。もとの骨格と前歯の位置によって変わってきます。
「口元の印象を変えたいのか、変えたくないのか」ここは患者様によってご希望が分かれる部分です。治療を始める前のシミュレーションで、口元がどの程度動く見込みなのかを画面でご確認いただけます。
顔の変化について詳しく知りたい方は、こちらもあわせてご覧ください。
>>歯列矯正で抜歯すると顔変わる?変化する人としない人の違いを認定医が解説
口元が下がりすぎることへの不安
抜歯でできたスペースをすべて前歯の後方移動に使うと、口元が想定以上に下がって見えることがあります。
ただし八重歯のケースでは、重なりを解消するためにスペースの大部分が使われることが多くあります。歯を並べるだけでスペースを使い切るため、口元の変化は限られた範囲にとどまる傾向があります。
スペースをどの目的にどれだけ配分するかは、治療計画の段階で決めるものです。「歯並びは整えたいけれど、口元は今のままがよい」といったご希望があれば、あらかじめお聞かせいただければと思います。
口元の変化については、こちらでも詳しくご説明しています。
>>抜歯矯正で口元が引っ込みすぎる原因とは?後悔しないためのポイント
抜いたすき間が残るのではという不安
抜歯によってできたスペースは、歯を動かす過程で使い切ることを前提に計画します。治療の途中ではすき間が見えている期間があっても、最終的にすき間は目立たなくなります。
ただし、装着時間が不足したり、通院の間隔が長く空いたりすると、すき間が計画通りに閉じないことがあります。とくにマウスピース矯正では、「今日はいいか」と外したままの日を作ってしまうと、その分だけ歯の動きが遅れます。
装置の使い方については、ご説明の時間をしっかり取っています。途中の経過も確認しながら進めていきますので、すき間が思うように閉じていないと感じたときは、お気軽にご相談ください。
八重歯の抜歯はマウスピース矯正でもできる?

「八重歯の抜歯矯正は、ワイヤーでないと難しいのでは」
そうお考えの方も多くいらっしゃいます。
今回ご紹介した症例は、重度の叢生かつ抜歯を伴うケースでした。それでも患者様のご希望により、マウスピース矯正装置(インビザライン)で治療を進めています。
ここでは、マウスピースで抜歯症例を扱うときにどのような設計をしているのか、そしてワイヤーのほうが進めやすいのはどのような場合かをご説明します。
マウスピースだけでは足りない動きを、ゴムとアタッチメントで補う


今回の症例では、八重歯と下顎の第一大臼歯の表面にボタンを取り付け、顎間ゴムをかけて歯の動きを補助しています。
マウスピースには、ボタンの位置に合わせて「ボタンカット」という切り込みを入れています。
マウスピースと顎間ゴムを併用することで、上下の歯列に適切な方向の力を加えることができます。
また、この患者様は上あごの側切歯が歯ぐきに覆われている部分が多く、歯の頭の面積が小さい状態でした。そのままではマウスピースが途中で外れやすいと予想されたため、通常は歯の表側だけに設けるアタッチメントを、歯の裏側にも追加しています。
装置の着脱のしやすさを考えてアタッチメントの形状を選ぶ
アタッチメントには、四角い形状のものと丸い形状のものがあります。
四角い形状はしっかり保持できる反面、マウスピースが強く引っかかり、患者様が外しにくくなります。今回は毎日の着脱の負担を考え、丸型のアタッチメントを選びました。
装置がどれだけ精密でも、毎日つけ外しできなければ歯は動きません。性能だけでなく、患者様がストレスなく治療を続けられるかどうかまで含めて設計しています。
アタッチメントが外れやすいと感じている方は、こちらもご覧ください。
>>インビザラインのアタッチメントがすぐ取れる原因と対処法|何度も外れるときの確認ポイント
一度で仕上がらない場合に行う「リファインメント」
マウスピース矯正では、はじめに作った枚数だけで計画通りに仕上がるとは限りません。
今回の症例でも、1年の時点で内側にわずかな歯の重なりが残っていました。噛み合わせが接していない部分もあったため、2回目・3回目のマウスピースを作り直して調整しています。
この作り直しを「リファインメント」と呼びます。抜歯を伴う症例では、動かす距離が長くなるため、リファインメントが発生することは一般的です。装置を作り直すたびにどれくらいの期間がかかるかは、治療全体の長さに関わってきます。
鶴見ニコ矯正歯科では、インビザラインに加えて、院内で製作するインハウスアライナーも扱っています。院内で作るため、リファインメント時の装置製作を1週間程度で進められる点と、枚数の制限を受けずに調整できる点が特徴です。なお、今回ご紹介した症例はインビザラインで治療したもので、インハウスアライナーとは別のシステムです。また、また、治療の途中でインビザラインとインハウスアライナーを切り替えることはできませんので、 どちらを選ぶかは治療を始める前にご相談いただく形になります。
ワイヤー矯正のほうが進めやすいケース
今回の症例は、歯の重なりの解消が主な課題でした。噛み合わせは大きく崩れていなかったため、マウスピースで進めやすいケースだったといえます。
一方で、口元を大きく後方へ下げる必要がある場合や、歯根を大きく動かす必要がある場合には、ワイヤー矯正のほうが適していることがあります。
なお、重なりが大きいケースでは、ワイヤー矯正にも難しさがあります。歯が重なっているとブラケットを貼る位置が限られ、途中で貼り替えが必要になることもあります。装置を問わず、設計の工夫が求められる部分です。
装置ごとの特徴をまとめてご覧になりたい方は、こちらをご参照ください。
>>【2026年最新版】矯正装置の種類と違い|マウスピース・ワイヤー・裏側矯正の比較
八重歯の抜歯矯正にかかる期間と、治療後の保定について

一般的に、 抜歯矯正を伴う八重歯の矯正治療は2~3年程度かかります。
ただし、治療期間の中には、歯並びの見た目を整えるだけでなく、噛み合わせを仕上げるための期間も含まれます。
今回ご紹介した症例では、歯並びの見た目が整うまでが約1年でした。そこから噛み合わせを仕上げるまでに、さらに約1年かかっています。矯正後も良好なお口の環境を維持するため、歯並びだけでなく噛み合わせの改善にも時間をかけて丁寧に治療を行うことが大切です。
そして、矯正治療は装置を外して終了というわけではなく、その後のケアも重要です。歯には、動かした後にもとの位置へ戻ろうとする性質があります。これを後戻りと呼びます。とくに重なりが大きかった方は、後戻りが起こりやすい傾向があります。
今回の症例では、前歯の裏側に細い針金を接着する固定式のリテーナーを使いました。ご自身で外す必要がないため、装着時間を守れない日が生まれません。ただし、固定式のリテーナーは前歯にしか取りつけられません。奥歯の位置を保つために、夜間だけマウスピース型の可撤式リテーナーを併用しました。
どのリテーナーを使うかは、歯を動かした量に応じて決めています。前歯の重なりが大きかった方には固定式を基本とし、奥歯には可撤式を組み合わせるという考え方です。矯正治療は、動かした歯並びをその位置で落ち着かせるところまでを含めた治療だとお考えいただければと思います。
後戻りへの備えについては、こちらで詳しくご説明しています。
>>マウスピース矯正は後戻りしやすい?後戻りしたときの対処や予防法について解説
まとめ:八重歯の抜歯は「抜くかどうか」より「どの歯をどう抜くか」

ここまで、八重歯の抜歯矯正について、実際の症例をもとにご説明してきました。
矯正治療で抜くのは、飛び出している八重歯そのものではなく、その後ろにある小臼歯であることがほとんどです。犬歯には、あごを横に動かしたときに奥歯を守る役割があるためです。
抜歯が必要かどうかは、歯を並べるために足りないスペースの量で決まります。そして今回の症例のように、健全な歯を残すために、あえて一般的な抜歯で選ばれる歯とは違う歯を抜くという判断もあります。動かす距離は増えますが、その後の何十年を考えたうえでの選択です。
治療の流れとしては、1年ほどで見た目が整い、そこからさらに1年ほどかけて噛み合わせを仕上げていきました。装置を外した後は、リテーナーで歯並びを落ち着かせていきます。
「抜歯と言われたけれど踏み切れない」という段階でも、何も決めずにご相談いただいて構いません。どの歯が対象になるのか、抜かずに済む可能性があるのかは、口腔内・顔貌写真に加え、セファロ分析(側貌レントゲン分析)などの検査結果を踏まえてはじめてお伝えできる部分が多くあります。
ご自身のペースで考えていただくために、まずは現状を知るところからお手伝いできればと思います。八重歯や歯の重なりでお悩みの方は、鶴見ニコ矯正歯科の初診相談をご利用ください。
参考文献一覧
本記事で参照した文献は以下のとおりです。
- Thornton LJ. Anterior guidance: Group function/canine guidance. A literature review. J Prosthet Dent. 1990;64(4):479-482.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/2231460/
(犬歯誘導とグループファンクションの位置づけに関するレビュー。どちらの噛み合わせが優れているかについて明確な結論は示されていない点を含めて参照しました) - Abu Arqub S, Chheda H, Crumpton J, Yang X, Farha P, Upadhyay M. Clear Aligners in Extraction-Based Orthodontic Treatment: A Systematic Review and Meta-Analysis. Orthod Craniofac Res. 2026;29:12-29.
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/ocr.70052
(小臼歯を抜歯した症例におけるマウスピース矯正の歯の移動と臨床評価に関する報告) - Charalampakis O, Iliadi A, Ueno H, Oliver DR, Kim KB. Accuracy of clear aligners: A retrospective study of patients who needed refinement. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2018;154(1):47-54.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29957319/
(リファインメントが必要となった症例における、計画と実際の歯の動きの差に関する報告) - Alwafi A, Bichu YM, Avanessian A, Adel SM, Vaid NR, Zou B. Overview of systematic reviews and meta-analyses assessing the predictability and clinical effectiveness of clear aligner therapy. Dentistry Review. 2023;3:100074.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2772559623000123
(マウスピース矯正で動かしやすい方向と動かしにくい方向の傾向に関する総説) - 厚生労働省「歯科疾患実態調査」(歯列・咬合の状況)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/62-17.html
(叢生が日本人に多くみられる歯並びの状態であることの根拠として参照しました)
監修歯科医師
小田垣 直弥
院長
マウスピース矯正や裏側矯正、口ゴボの改善などの難症例を得意としています。矯正歯科医として、患者様一人ひとりの骨格や顔立ちに合わせた治療を心がけています。特に、見た目にこだわる大人の方には「見た目に矯正中だとわかりにくく、仕上がりにも妥協しない治療」を大切に、日本矯正歯科学会認定医として丁寧な診断とご提案を行っています。
マウスピース矯正や裏側矯正、口ゴボの改善などの難症例を得意としています。矯正歯科医として、患者様一人ひとりの骨格や顔立ちに合わせた治療を心がけています。特に、見た目にこだわる大人の方には「見た目に矯正中だとわかりにくく、仕上がりにも妥協しない治療」を大切に、日本矯正歯科学会認定医として丁寧な診断とご提案を行っています。


